2019.02.06
精液瘤は珍しい病気で、病院の泌尿器科でも年間の手術件数は少ないのが現状です。当院では、ホームページをご覧になり関東遠方より日帰り手術を受けに来られる方が増患しております。
この疾患は薄い膜状の瘤をしっかりと切除しなければ再発するため丁寧な切除が必要になります。多忙で入院はできない、手術に際し腰椎麻酔には抵抗があるなど、不安のある方々には、局所麻酔日帰り手術にてご案内しております。精液瘤の大きさが手拳大くらいまで腫れている際は、日帰りでの手術は不可能なことがあります。
また 妊娠を希望されている世代の方は 手術の影響で精管閉塞の可能性もあり
手術を見送る必要も検討されます。
途中で手術写真があります。
気分が悪くなりそうな方は 閲覧に注意してください。
精液瘤は 英語では spermatocele と言います。
禁欲、炎症、外傷および胎生起源などの諸説が原因で、
睾丸網または副睾丸頭部の異常精細管から発生した停滞嚢胞の中に精液が貯留している
状態です。痛みなどはなく、陰嚢内にもう一つ睾丸があると? と感じたりして
気づかれたりする方がいます。
精液瘤が将来 ガン化 することは ありません。また若年層の方でも これが
原因で不妊症になることもありません。
治療の対象は、ピンポン玉サイズくらいまで大きくなり、きつめの下着などを
身に着ける際 または 足を組んだりする際に 痛みや違和感を感じるようなときは
手術切除適応がありますが、お困りになっていなければ、その手術は必要ありません。
瘤を穿刺して吸引することも可能ですが一時的に小さくなるのみで消失は期待できません。
診断は 超音波検査と嚢胞穿刺にて内容液に精子を見つければ確定となります。
睾丸の頭側に嚢胞を認めます。鑑別疾患である陰嚢水腫と異なり、
孤立性に睾丸上側に存在します。
実際の手術とリスクについて ご説明します。
海外を含め、当院でも麻酔は 日帰り局所麻酔 で可能ですが、
その大きさが 手拳大 くらい大きい場合は 当院では 局所麻酔ではできず
病院での治療をお勧めしています。
また 後述しますが 合併症に妊孕性の問題があり ご妊娠を将来にわたり検討する方は
手術を見送るべきと考えます。
術式に関して
精液瘤切除術は海外では spermatocelectomy と言われています。
日本では保険診療上の手術式名はなく、当院では 精巣上体の一部の嚢胞腫瘍性変化として保険診療上 精巣上体の摘出術K832として診療しています。厚生労働省にも問い合わせしましたが、現況では こちらの保険収載しかありませんでした。
精液瘤は薄い膜嚢胞構造となっており、睾丸または副睾丸から流出している茎(tubular stalk)を同定できるように嚢胞を全周性に剥離して摘出しなければ、術後、瘤の再発の可能性が残存する可能性があります。この嚢胞は容易に破れてしまうため 丁寧かつ慎重に 周りの組織から剥離を要します。
当院にて 嚢胞状に切除した精液瘤
リスクについて
精液瘤切除術は精子の輸送路である副睾丸への侵襲、閉塞の可能性があり妊孕性に
悪影響をきたす可能性があります。そのため 妊娠を希望される男性には 手術適応を見送る必要があります。
報告例としては海外文献参考に 陰嚢内出血 陰嚢部腫脹 感染 慢性疼痛 精液瘤再発
などがあります。また
睾丸梗塞 睾丸摘除例 もまれではありますが報告されています 。
これは、睾丸への栄養血管(精巣動脈 精巣上体動脈分枝)が 切除する際に損傷する可能性が、ごく稀ではあるが
否定できないためと考えます。
やはり手術ですので 手術手技内容の特異性、癒着などの患者様背景を
考慮すると 以上のような リスクもある手術となります。
そのため その 手術の必要性と合併症について 患者様と よく相談させていただき
施術を受けていただきたいと 思います。
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